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税制解説

どう変わる?「令和8年度税制改正」から考える中小企業の経営 ~今こそ自社の「お金の使い方」を見直してみませんか~

物価高騰や人手不足、賃上げの波など、中小企業を取り巻く経営環境は依然として難しい舵取りが続いています。

昨年末に発表された「令和8年度税制改正大綱」では、これからの経済成長の実現に向けた前向きな施策との政府発表もありますが、中小企業にとってどのような影響があるのでしょうか。

新しい制度ができると、つい「何が得か、損か」というお話しになりがちですが、今回の改正をどう捉えこれからの経営にどう活かしていくべきか、 税理士の視点からお話ししてみたいと思います。

「節税」のために経営を歪めていませんか?

経営相談の現場で、お客様から最も多くいただくご質問の一つが、「どうやって節税したら良いですか?」というものです。

事業継続のためにキャッシュフローを確保し、無駄な税負担を避けることは経営の基本です。

しかし、あくまで私個人の感覚ですが、「節税」という言葉がもつ「とにかく税金を減らせば正解」というニュアンスに少し違和感を覚えることがあります。

税金は、私たちが安心して事業を続けられるよう社会インフラを支える大切な要素です。公平性は今後も課題になるところではありますが、単純に目先の削減だけを目指すのが正解とは限りません。

ですので、私はお客様にこう提案するようにしています。

👉 「税金を減らす」ことを最優先するのではなく、「お金の使い方」を整えてみませんか?

令和8年度改正の主な変更点(予定)と実務への影響

今回の改正案のポイントを従来制度と比較し、ざっくりと表にまとめてみます。

項目 従来 令和8年税制改正案 実務への影響と視点
設備投資
(大規模)
中小企業
投資促進税制
などが中心
新制度創設
(即時償却 または
最大7%税額控除を
選択可能)
ソフトウェアや
建物等も対象へ。
投資の選択肢と
自由度が向上。
少額設備
(即時経費)
30万円未満
まで
40万円未満へ
拡充
現場レベルの
機器更新や業務改善が
進めやすくなる。
従業員還元
(食事提供等の
非課税枠)
限度額が
月額3,500円
月額7,500円へ
引上げ
現金給与以外の
「多様な還元」の
価値が
相対的に高まる。

令和8年4月1日以後に
支給する食事等に
ついて適用
される
ため、切り替え
時期に注意。
従業員還元
(深夜勤務時の
夜食代)
非課税となる
支給額が
300円以下/回
650円以下/回へ
引上げ

令和8年税制改正は「選択肢を増やす」ためのもの

今回の税制改正のポイントを一言で表すなら、経営者にとって

👉 「お金の使い方の『選択肢』が増えた」

という点にあると思います。

例えば、設備投資への優遇や、小規模な支出に関する基準の見直しなど、国が用意したメニューの中から、「自社はどう使うか」を経営者が主体的に選択できる制度へと整備されています。

では、具体的にはどのように「選択」していけば良いのでしょうか。


思考のポイント①:設備投資は「現場の必要性」から考える

今回の改正では、企業の生産性向上を後押しするための設備投資に関する税制が大きく動きます。

新設:特定生産性向上設備等投資促進税制

企業が策定した投資計画に基づき導入する設備について、取得価額の合計額が一定規模以上(中小企業:5億円以上)となる場合に適用される新制度。

選択できる優遇措置|

① 即時償却
取得年度に全額経費化
② 税額控除
最大7%(建物・建物附属設備等は4%)【上限:法人税額の20%】
⇒3年間の繰越控除措置(事業環境の急激な変化に係る対応計画の認定を受けた事業者)

※上記2つの優遇措置のうち、いずれかを選択。


参考: 経済産業関係税制改正について | 経済産業省

延長・拡充:
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
(30万円⇒40万円未満へ)

中小企業者等が取得する少額資産について、
一定額(合計300万円)まで取得年度に全額損金算入(即時経費化)
できる制度。

原則
耐用年数に合わせて数年に分けて経費化
従来特例
30万円未満なら購入年度に全額経費化(令和8年3月31日まで)
改正特例
40万円未満なら購入年度に全額経費化(令和11年3月31日まで)

参考: 少額減価償却資産の特例 | 中小企業庁
No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|国税庁

大規模な投資に対しては、取得した年度に全額を経費にできる「即時償却」や、法人税から直接差し引ける「税額控除(最大7%、建物・建物附属設備等は4%、3年間の繰越控除措置)」を選べる新しい制度(特定生産性向上設備等投資促進税制)が創設される方向です。

対象も機械だけでなくソフトウェアや建物にまで広がる見込みで、デジタルツールやAIなど利便性の高いものへの投資に対し、「税金面で後押しするから企業に積極的に動いてほしい」という政府からの強いメッセージを感じます。

ただし、「大胆な投資促進税制」といわれるとおり最低額が高額なため、中小企業にとって使いやすいのは次に挙げる「少額資産特例」でしょう。

少額減価償却資産の損金算入特例については、従来の特例が延長・拡充されることになりました。

設備やパソコンなどの減価償却資産は、耐用年数に合わせて数年に分けて経費化するのが原則です。この内、中小企業者等のみ30万円未満であれば買った年に全額経費にできる特例が、改正により「40万円未満」に引き上げられ、期間も3年間延長されました。限度額300万円に変更はありません。

こう聞くと、「じゃぁせっかくだからパソコンを買い替えようかな?」とすぐに経費の増額を検討する経営者の方も多いのですが、大切なのは順番です。

「税制でお得になるから、何か買うものを探す」
現場を良くするために必要だから投資する。その結果、税制も活用できた

まずは、現場の方にヒアリングしてみましょう。

  • ちょっと使い勝手の悪い工具
  • 昔々に買った古い電気設備(エアコン・複合機など)
  • CADや動画編集ソフトなど古いバージョンのままのソフトウェア

壊れてもいないからと我慢して使っているものが、実は作業効率を大幅に下げていることがあります。これらを更新することで、現場のストレス軽減になり職場環境を良くすることにもつながります。


思考のポイント②:人への還元は「多様な形」で設計する

今回の改正のもうひとつの側面は、従業員の福利厚生となる施策が拡充されていることです。背景には、昨今の物価高騰への対策としたい政府の姿勢が見えます。

拡充:「賃上げ促進税制」

企業が従業員給与を一定割合以上(雇用者全体の給与総額増加率+1.5%以上)
引き上げた場合に、増加額の一部を
税額控除(給与増加額×15%)』できる制度(繰越期間5年間)。

以下、条件にて上乗せ|

👉 対前年度 +2.5%以上で +15%上乗せ
👉 「くるみん認定」または「えるぼし認定」を受けた企業は +5%上乗せ


参考: 中小企業向け「賃上げ促進税制」 | 中小企業庁

見直し:「食事補助に関する非課税制度」

企業が従業員へ支給する食事補助について一定要件を満たす場合、
所得税が非課税(従業員側で給与課税されない)』となる制度。

変更点|

・従業員が食事代金の半額以上を負担 かつ
・企業の補助額が月額7,500円以下) 

変更点|

👉 現行の月額3,500円から月額7,500円に引上げ
👉 深夜勤務者の夜食代も1食300円から650円へ引上げ


参考: 食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて | 国税庁

賃上げ促進税制を活用すると、経費算入だけでなく法人税負担を直接軽減することができます。

昨今の人材不足の中で自社の採用競争力を高めるには、制度を活用した賃上げは非常に効果的です。ただし、設備投資とは違い人件費は固定費であり、売上が不安定な企業にとっては経営を圧迫してしまうことにもなりかねません。

制度の適用要件や今後の資金繰りも含め自社に合った水準を検討することが重要ですので、ここはぜひとも長年数字を共に見ている顧問税理士にご相談ください。

また、様々な理由により賃上げが容易ではない企業においては、食事補助に関する非課税制度の活用もご検討ください。

お弁当やまかないなど、事業所が従業員へ食事の現物支給をしている場合、原則、従業員の給与として課税対象になります。

ただし、

  • 従業員等が食事の価額50%相当額以上を負担していること
  • 事業所の負担額が限度額以内であること

この2つの条件を満たした場合には非課税になります。

この②の限度額が、本年の改正により月額3,500円⇒月額7,500円へと大幅に引き上げられました。

会社にとっては「経費」となり、従業員にとっては所得税や社会保険料の負担が増えないため、現金給与で同額を渡すよりも双方にとって効率の良い還元方法となり得ます。

ただ、会社は従業員数によって分かりやすい効果が得られると思われますが、従業員個人にとっては5,000円前後の差額であり、きちんと説明を行っておかないと制度を知らないままありがたみを感じられない結果となってしまいます。

賃上げが当たり前のように重要視される昨今ですが、このように従業員への還元は「給与」だけではありません。

今回の改正の流れを見ると、福利厚生なども含めた「多様な還元」を後押しする方向性が感じられます。

福利厚生は単なるコストではなく、働く環境の質を高め、会社と従業員の関係性を深めるための重要な「投資」です。給与と福利厚生、それぞれの良さを理解し、バランスよく組み合わせる視点が大切になります。


まとめ:「節税」から「最適な再配分」へ

利益が出ている会社ほど税負担は大きくなります。

「何もしない」でいると、想定以上の納税資金が必要になることもあるでしょう。しかし、そこで無理な節税に走るのではなく、今回の改正を機に視点を「お金の再配分」へと切り替えてみてはいかがでしょうか。

  • 国に納める分(納税)
  • 会社の未来に投資する分(設備・人材投資)
  • 今いる従業員に還元する分(給与・福利厚生)

このバランスを自社の状況に合わせてどう設計していくか。

無理のない範囲で、必要なところに資金を循環させていく。その積み重ねの結果として、税負担も適正な形に整っていくのが理想だと私は考えています。

今回の改正が、皆様の日々の経営判断を少し見直す良いきっかけになれば幸いです。


この記事を書いたのは

新経営サービス清水税理士法人

1957年 京都にて個人創業。以来、京都を中心に「相談しやすい税理士」として中小企業の経営者様に寄り添った毎月訪問型の税理士事務所。医療福祉や相続・承継などの専門特化した部門を有し、多角的な知識と経験を有する税理士が多数在籍。

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